抗夫/夏目漱石

大阪旅行記の後、何を書こうかとしばし悩んで、読書感想文にしました。

坑夫 (新潮文庫) 坑夫 (新潮文庫)
(2004/09)
夏目 漱石

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私はこっちを読みました。

夏目漱石全集〈4〉 (ちくま文庫) 夏目漱石全集〈4〉 (ちくま文庫)
(1988/01)
夏目 漱石

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「虞美人草」とセットになっていまして、そちらは読むのに少々苦労しましたが、
「抗夫」はとても面白かったです。
さくさく読めるけど、読み終わるのがもったいないと思えるような作品に出会ったのは、
相当久しぶりな気がします。
これはとある青年の体験談を、漱石が小説にした作品だそうです。
恋愛がらみのごたごたで死のうと思い家出した主人公が松原を歩くうちに
茶屋で巡り合ったポン引きの長蔵さんについて炭坑へ行くお話。
主人公は抗夫という職業を蔑んでいて、まさか自分がそんな仕事をするなんて
思いもよらなかったのでしょうが、家出した身でご飯は食べなくてはならんし、
長蔵さんは「儲かる儲かる」と言うし、
まぁ死ぬ気なんだから抗夫でも何でもいいかと長蔵さんと、
道中出会った2人と共に炭坑へ向かいます。
しかし炭坑で働いた経験も無ければ、いかにもお坊っちゃんな主人公ですから、
ベテランの抗夫たちにいびられたりもします。
お腹が空いてご飯を食べようとすれば、白米もなく、まずい飯。
寝ようと思って布団を敷けば南京虫に刺される。
「悪いことは言わないからやめておけ、さっさと帰りなさい」と、
現場監督に助言され、こんな環境でやっていけるようには見えない主人公ですが、
ここですんなり引き下がるのも癪なのか、妙にプライドが高くて頑張ってしまいます。
そもそも炭鉱へ来る道すがら、長蔵さんに財布を預けてそのままだから、
帰りの電車賃も持ち合わせがないのです。
先輩について炭坑に必死に潜るも道に迷ってしまって、
別の抗夫、安さんに助けてもらって地上へ出るという始末。
この助けてくれた安さんも何かワケありで炭坑へ来た様子で、
知性を感じさせる安さんを主人公は慕うようになります。
しかし誰に「君には炭坑は向かない、帰りなさい」と言われても、
頑として残ると言い張る主人公、結構面倒臭いヤツなのです。
で、主人公はその後どうして行くのか、そんな話。
「こゝろ」を読んで以来、夏目漱石の全集を読み漁っているのですが、
小学生の頃、「坊っちゃん」と「吾輩は猫である」が余りにも面白くなくて、
恐らく障害二度と読まない作家リストの3番目くらいに夏目漱石の名がありました。
しかし今読み返してみると、「坊っちゃん」も「猫」も面白いし、
他の小説もとてもいい、もっと早く読みたかったです。
でもきっと、今、三十代に入ってから読むべき作家だったのでしょう。
小学生とか中学生に読ませるには、夏目漱石は難しい気がします。
ただこの「抗夫」に関して言うならば、学生が読んでも面白いかもしれません。
人間が何もかも嫌になって死にたくなる、
本気で自殺を考えたが、自ら命を絶つ勇気がまだほんの少し足りない時に、
人間はどこへ向かって、行き着く果てはどこなのか。
そこに何か希望や、今まで見てきて、信じてきたものとは違う何かがあるのか。
或いは、そこにも死以外の何も見出せないのか。
人生は心底死を願っても、思い止まる価値があるものなのか。
そんなことを考えさせられまして、
通勤中に電車で読んでいたのですが、人目も憚らず泣いてたりして、
結構恥ずかしいことになっていたと思います。
主人公が初めて炭坑に潜った際の情景の描き方がとてもリアルで、
読んでいても思わず力が入ります。
胴まで水に浸かって歩く箇所や、暗い炭坑を梯子で降りて行くシーン、
炭坑に潜った経験など当然ありませんが、
自分が暗くて深い穴の底にいるような気分になります。
腰に下げたランプだけが頼りで、他には何も見えない闇の中。
自殺するつもりで家を出たけど、「こんなところでは死にたくない」と
ドロドロになりながら必死に地上への出口を探す主人公の心情も手に取るように分かります。
ずっしり来るけど読みやすい、
人生に迷った時に読むのもいいかも知れません。

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